2023.06.05GOALZ
プロ野球の開幕とともに、SさまとKさまはいつも阪神タイガースの話題で盛り上がっています。「昨日の試合は残念だったね」「チームの調子が本当に良いよ」と、いつも楽しそうです。しかし、実際には何十年もの間、甲子園球場で野球観戦をする機会がありませんでした。そんな中、他の利用者さまからタイガースの試合を観に行ったという話をKさまが耳にし、「羨ましいなぁ、自分も行きたいな」と。それが今回の企画のきっかけです。
Kさん、思い切って実際に野球観戦に行ってみませんか?――Kさまは左片麻痺があり、普段は電動車椅子で生活されています。そのため一人での外出はむずかしく、私たちがサポートをしながらお連れすることを提案してみました。するとKさまは目を輝かせながら「行きたい!」と。観戦はお連れさまがいるほうが盛り上がると考え、いつも一緒にプロ野球の話で盛り上がっているSさまにも声をかけてみました。すると、Sさまらしい返事で「行こか」と承諾してくれました。それからは、当日に購入するユニフォームを決めたり、お弁当を調べたりと楽しみにされている様子が見られました。
そして、ついに試合当日がやってきました。
あいにく天気は雨模様でしたが、夕方以降は曇りの予報で試合は無事に開催されました。阪神甲子園球場に到着すると、二人はお気に入りの選手のユニフォームを購入し、調べていたお弁当も手に入れて入場です。球場には4万人の大観衆。何十年振りの球場の景色に早くもお二人の興奮が広がっていきました。Sさんは椅子に深く腰掛け、腕を組んでまるで監督のような格好で観戦し、試合の場面によっては“怒り”の表情を浮かべることもありましたが、初めて見せる喜怒哀楽の表情がとても新鮮でした。Kさんは「お姉ちゃん!ビール!」と売り子さんからビールを購入し、メガホンを手にして応援に熱を入れていました。
残念ながら、試合結果は敗戦でした。お二人とも熱狂的なタイガースファンだけに、悔しさを感じておられましが、「楽しかった!」「観に行けて本当によかった!」「また行こうな!」といった言葉を口にし、試合結果に対してはあまり気にしていないご様子。試合の結果よりも、生で観戦できたことの喜びが試合の結果を上回ったように感じられました。
実は、私にとってGOALZは初めての経験でした。不安がなかったと言えば嘘になりますが、「二人の希望をカタチにして残して差し上げたい! いい一日にしてあげたい!」という気持ちのほうが大きく、わくわくしながら丁寧に準備を進めていきました。そして、想像以上にお二人の喜びを感じることができ、日常生活に些細な楽しみがあるだけで、こんなにも違うものだと実感することができました。これからも“GOALZ”を通じて、利用者さまの希望をかたちに変える企画を自分自身も楽しみながら提案していきたいと思います。